愉快にお酒を酌み交わすことが好きだ。自分が生きる世界の出来るだけ奇妙なところを,苦味と圧力のあるアルコールを舌で転がし,丸くしていく。時に,現実を俯瞰しながら,自分を卑下しながら,他人を嘲笑いながら。すると全て,愉快な物語の1ページになっていく。酔っ払った私はあまりに愉快になり,「今の私は何者でもなくて,これから夜の街で素敵な出会いをして,新しい世界を見つけてしまうんだ!」と本気で妄想してしまう,いや,本気なので妄想ではなくて,企んでしまう。何年かお酒を飲んだり,バーで働いたりしているはずなのだけれど,私の"飲酒"イメージは,中学生の頃に読んだ,森見登美彦の「夜は短し歩けよ乙女」の中の世界観から抜け出せていない。憂鬱な現実とは一線を引いた,下手に飾り付けられたわけでもない,踊り出してしまいそうな,重みはあるが軽やかな,丸みを帯びて,使用感があり愛着の湧く,マイルドだけど狂気がある,愉快なあの世界が大好きだ。いつか,偽電気ブランの飲み比べに勝利したいと思って,最近黒髪にした。